「様、コーヒーをお持ちしました」
「ん、サンキュ」
「落ちつかれないようですね」
「……当然だろ」
そうですね、と苦笑して遥はコーヒーをテーブルに置いた。
シナモンメッシュのストレートがさらさらと肩を流れる。
僕は白いカップに手を伸ばして、一口、その苦さを嚥下した。
彼女が僕を別室に呼びに着たのは、それから兆度二時間後の事だった。
僕の名は。都内でも有力な財閥の社長補佐役だ。
地主だった曽祖父が残した遺産もあって、祖父も父も事業を立派に継いだ。
無論、財閥一人息子の僕にはそれが全て託されたわけで――。
とはいえ、まぁまだ父も現役で代表取締役。僕はその補佐役に甘んじている。
第一、僕にはまだ経済に対しそれほどの知識も経験も興味も無い。
財産に囲まれて育ったにしては、我ながら謙虚な人間が出来あがったと思う。
別に良いのだ。その時になれば、それなりに人生進むんだろうから。
四代目の僕が今手にしているのは、祖父から直々に譲り受けた豪邸。
言うまでも無いが僕にはそれほど需要があったわけじゃない。
それでも、今現在、ここには僕と――何人かの女の子が暮らしてる。
つまり、メイド役、って奴だ。
メイドは全部で五人。
彼女たちは僕の身の回りの世話をする役目だから、いつも忠実に笑っている。
可愛い。五人それぞれ、正直言ってかなり可愛い。
僕は道を誤った。
何をしたかって――彼女らの一人と夜を明かし、…妊娠、させ、た。
*
部屋に入ると、ちょっとレトロな照明が暗がりを照らしていた。
入ってきた僕の後ろで、遥がドアを閉める。
「どうぞ、様」と一オクターブ高い声で勧められ、僕は足を出した。
部屋の奥にはベッドがひとつ。
その手前には白いテーブルが闇に映えていて、医療器具が置かれている。
黒髪の唯がこっちを向いた。
彼女の手を握り締めている、白い指が目に入った。
「御主人様、こちらへ」
唯に促されて、僕はゆっくりとベッドに近寄る。
近付くにつれ――耳に入る、苦しげな呼吸音。
僕は意を決し、ベッドをのぞき込んだ。
「御主人様よ。目を開けて」
恵が金髪を揺らしてベッドの中に囁いた。
恵の手は、ゆっくりと「彼女」の腰をさすっている。
そして「彼女」は薄い瞼を上げ、潤んだ瞳で僕を見た。
僕は、それに吸い込まれるようにして、名を呼んだ。
「凛」
紅潮した肌に、ウエーブがかった髪が少しまとわりついてる。
凛は僕を見て安心したように笑みを浮べ、右手を伸ばした。
僕は黙ってその手を握る。
痛いほど、彼女が握りかえす力は強かった。
「…」
凛の口から僕の名が零れ、思わずドキッとする。
「…苦しいのか?」
…我ながら馬鹿な質問だと、言ってから思った…。
子供を産むんだ、苦しく無い筈が無い。凛は小さく頷いた。
「――ぁ…っ……!」
凛の口から何度目かの声が漏れた。
彼女の足元では、薫が色々と指示を出している。
「凛、無駄に息んじゃダメよ。痛みに合わせるの」
「だめ…痛い……」
「駄目じゃないわ、出来るから。ゆっくり息を整えて」
どうすることもできず、僕は内心おろおろと凛を見つめた。
握り締める手は強く、凛の綺麗な顔は汗で濡れている。
「ぁあっ…っ…、、…痛い…!」
「凛、…頑張って」
言いながら――僕は自分の下腹部が熱を持ってるのに気づいていた。
凛の、苦痛の表情とか、
震える吐息とか、
不可解なまでに膨らんだ腹部とか、
それを覆うメイド服とか、
そんなものに――僕は、今までに無く、…興奮してる。
「薫…もぅ、息みたい…我慢できなぃ…!」
「――良いわよ、思いきって。波に乗せるの、そうすれば、大丈夫」
「ぁ…っく……ぅぅっ…!!!」
凛が必死で力をこめる。
僕はドキドキしながらその様を眼に焼き付けた。
力をこめるたび、凛の腹部が緊張するのがわかる。
彼女の中では小さな胎児が、ゆっくりと、蠢いているんだ。
それを、凛の中の肉壁が、押し出す。
――そう。
狭い産道を通して、僕の血が混じった、小さな身体が――出ようと。
…なんて神秘だろう。
「うっ…ん、…ぁあ…!!」
「凛、声は控えて。力を入れることだけに集中して」
「ん…くぅ…っ!!!」
「凛…!」
恵や遥たちも、必死で凛を励ましている。
すると、唯が側に寄ってきて、凛に言った。
「もう頭が出そうよ。御主人様に取り上げてもらうんでしょう?」
「…うん…」
凛は、苦しそうに喉を開けながら、僕を見た。
「…私の子を…一番に抱いて欲しいって…言ったの、覚えてる?」
……あぁ、そういや…そんなことを言われたっけ。
「お願い…。その手で、私との子をとりあげて。
私の中から出てくるのを――ちゃんと、見て」
「…凛」
「の子供…産めるのが、嬉しいの…。
痛いけど――でも、熱くて…出口が…凄く、熱い…。
ぁあ…っ、早く…!」
どうしたことだろう。
凛の目が陶酔してる。
吐息が、甘い香りがする。
僕は凛の脚の方にまわって、其処を、目にした。
綺麗だ。
そう、正直に思った。
凛の其処を割って、もうひとつの頭が見える。
呼吸に合わせて其処が時折ひくっと痙攣するのが、嫌に艶かしい。
僕は無意識に、其処に手を伸ばした。
「ぁあっ…!!!」
凛が声をあげる。
思わず手をひっこめると、ゆっくり、其処の筋肉が緊張して、動いた。
「凛…凄い、よ。綺麗だ」
「……見える?子供…」
「見えるよ。凛のここから、頭が出ようとしてる」
「うん…!…ぁ、来た…!!、見てて。ちゃんと…」
凛は半ば叫ぶように言うと、思いきり息み始めた。
息むたび、其処が少しずつ開いて、頭を押し出そうとする。
「ぅうっ…ん……、―――ッ…!!!!」
僕の手に、温かい羊水と一緒に頭が押し出されてくる。
凛の息遣いはだんだん激しくなって、しきりに声を殺しながら力を入れる。
ちらと脚の向こうに目をやると、唯たちに囲まれている凛の表情。
苦痛に歪んで――それでも、物凄く綺麗な表情をしている。
する、と頭が出て、僕はしっかりとその感触を感じた。
濡れていて――温かくて。
それは間違い無く、凛の――「中」の熱…。
「凛、頭が出た」
僕の側でそれを見ていた薫が言った。
それを聞いた凛は、少し目を開いて僕に視線を合わせた。
「もうちょっとだよ、凛。頑張って」
「うぅ、んっ…!!!」
子供の肩が少しひっかかって、凛は苦しそうだ。
荒く呼吸を繰り返しながら、何度も下半身に力をこめる。
やがて片方の肩が覗いて――。
僕は先刻のように、其処に直に触れた。
「あ、…!!出る……!!!」
叫んだ直後、驚くほどするりと、子供が僕の手元に流れ出た。
思った以上にそれは重く、熱い。
呆然としながらも、僕はじっと手の中の命を見つめた。
「凛、…凛、生まれた」
やっとそれだけ言葉にすると、凛の弱い声が返って来た。
「…どっち?」
「女の子…」
「見せて…」
僕は臍の緒で繋がれたままのその子を、凛の胸に抱かせた。
凛は子供と対面して、笑った。
「…可愛い…」
「うん」
「……に似てる」
「そうかな」
「…この子…本当に私の中にいたんだよね」
「うん」
「……私の中で育って…私の中を通して、出てきたんだよね」
「うん、そうだよ」
「…ありがとう、。…大好き」
凛の頬を流れる涙を、僕は少しだけ舐めた。
それから、少しだけ、唇をついばんだ。――ありがとう、と込めて。
40000HITおめでとうございます。
趣向を変えて小説にしてみました。体験版というか、まぁ遊び心を込めて(笑)
それにしても、実際の場面をちゃんと見たことの無い私には、表現がすさまじく適当で…。
申し訳ない限りです;ビデオ見れる年齢になったら、勉強しますね(苦笑)
凛たちの御主人様になって、楽しんで頂けたら幸いです。
密椿
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